東日本大震災と伊藤若冲

「リンパ浮腫について」の稿の途中ではありますが、今の時期、取り上げておきたいことがあります。
東日本大震災の時、気がかりだったことは、学生時代にお世話になった東北の太平洋沿岸の方々、特に一晩泊めていただいた福島県南相馬市の方でした。長い間連絡を取らずにいて、そこに住んでいるのかもわかりませんでしたが、震災の2年後、2013年にそこへ行くことができました。新幹線と電車、バスを使い相馬駅まで行き、そこから先はレンタサイクルを利用しました。古い住所しかわからないため、昔の記憶をたどることしかできませんでしたが、何とかそこへたどり着き、その方に会うことができました。40年近くたっていたので、果たして覚えてくれているのかわかりませんでしたが、古い写真を持って行ったこともあり、すぐに思い出してくれました。その家族の皆さんは、沿岸に住んでいましたが無事でした。いきなり行ったにもかかわらず大歓迎で、半日の間、地元の方でないと入れないようなところまで案内してくれました。お見舞いに行ったのに、励まされたのは私でした。

その旅では、ほかにもいくつか目的があり、そのひとつが岩手県立美術館へ行き、伊藤若冲の作品を見ることでした。テレビや雑誌では以前から知っていましたが、実際に見るのは初めてでした。伊藤若冲の作品だけでなく、ほかにも多くの日本画を所有しているアメリカのジョー・プライスという方には、悦子さんという日本人の奥さんがいて、日本とも深いかかわりのある方です。大震災の報にふれ大変なショックを受けて、日本を何らかのかたちで助けたいと思っていた時、テレビ報道で瓦礫の中で泥をかぶっていた一本の梅の木に花が咲き、桜や水仙も花をつけている様子を見て、涙が止まらなかったそうです。美しいもの、たくましく生命力にあふれたもの、自国の歴史と文化を背負った日本人が忘れてはならない誇り、それらが日本の人々に元気と勇気を与えるものであると、その時気づかれたそうです。それで被害のひどい東北三県の仙台市博物館、岩手県立美術館、福島県立美術館の三館で2カ月間ずつ、展覧会を開くことになりました。

岩手県立美術館に入って、伊藤若冲をはじめとして数々の日本画を見て感動したのはもちろんですが、一番見たかった「花も木も動物もみんな生きている」という屏風に描かれた作品は、会場の最後の方にありました。八万六千個もの正方形のタイルのようなマス目に色を埋める、生きものを表現した作品です。こちらを向いた動物や横を向いた鳥、花や木が並列していて、様々な生きものが平和に共存して、美しく誇り高く生きているポートレートのような作品です。言葉を失った多くの日本人、特に東北の太平洋沿岸の人たちにとって、この作品がどれだけ救いとなったことか。芸術がどれほど力のあるものか、この時ほど感じたことはありません。

一週間の短い旅でしたが、石巻市にある石ノ森萬画館では、子供の頃に読んでその後、探し求めていた「龍神沼」という作品の原画展をやっていたり、当時流行りはじめていた朝ドラ「あまちゃん」の舞台である三陸鉄道に乗ったりと時節を得ていて、来るべくして来た、呼ばれていたような旅でした。

参考文献および掲載写真
東日本大震災支援「若冲が来てくれました プライスコレクション 江戸絵画の美と生命」 
監修 辻惟雄 日本経済新聞社 展覧会カタログ 2013年4月8日発行

東日本大震災と伊藤若冲” に対して2件のコメントがあります。

  1. かつみ より:

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    1. katsumi より:

      ご覧いただき、ありがとうございます。
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