リンパ浮腫について 5

医療徒手リンパドレナージの禁忌については前回説明した通りですが、医療徒手リンパドレナージは主治医の指導のもと、基礎疾患の治療と並行して行う必要があります。
例えば悪性腫瘍が原因の浮腫の場合、相対禁忌となっておりますが、加療の是非は主治医の判断によります。現在、がん症状が進行しており、日常生活では浮腫を放置することが大きな支障となる場合、症状緩和のために行うことがあります。
医療徒手リンパドレナージの実施が、がん細胞の転移を促すかどうかということについて、世界各地において様々な研究がなされて来ましたが、これまでのところ動物実験や経験的な臨床結果の総合的観点から、本療法はがん細胞の転移に影響しないとの結論に至っております。
医療徒手リンパドレナージは「フェルディ式複合的理学療法」の内の一つであり、「スキンケア」「弾性包帯や弾性圧迫衣による圧迫療法」「排液効果を促す運動療法」と並行して行う必要がありますが、ここでは医療徒手リンパドレナージにしぼって説明します。

体液区分線
リンパ管には逆流しないように弁がついており、一方向に流れる構造になってることは「リンパ浮腫について2」で説明している通りですが、リンパ管には、毛細リンパ管・集合リンパ管・リンパ本管の順に口径が大きくなり、毛細リンパ管には弁がありません。これは大きなポイントになるので覚えておいて下さい。
上肢・下肢・頭と首・体幹のリンパ管(リンパ液)が、腋窩リンパ節・鼠径リンパ節・頸リンパ節に流れ込み、さらに静脈角に流れ込んだ後、静脈と合流することも以前に説明している通りです。
体幹には、体液区分線というリンパ管(リンパ液)の流れを分ける線があり、臍(へそ)を上下左右に分ける線、臍の真後ろを上下左右に分ける線があり、この線を境にリンパ管の弁の向きが変わります。頭と首についても同じような線があります。これらは眼に見えるわけではありませんが、機能として働いています。図を見れば一目瞭然ですが、要はこのリンパ管の弁の向きが変わる体液区分線を考慮して、リンパ液をリンパ節へ向けて流せばいいのです。
例えば臍の下の下腹部は左右の鼠径リンパ節へ、臍の上の胸腹部は左右の腋窩リンパ節へ向けて流せばいいと言うことです。

主要リンパ連絡路
リンパ節が正常に機能しているならば、そのように施術すればいいのですが、リンパ節の機能が低下している場合、あるいはリンパ節を郭清(切り取る)している場合、どうするかが問題になります。その場合は、リンパ連絡路という機能を考慮することになります。先に大きなポイントとしてあげたように、毛細リンパ管には弁がありません。この機能を利用して、体液区分線という境を超えてリンパ液を流せばいいのです。図を見れば一目瞭然ですが、主要リンパ連絡路という機能上の路があり、これに沿ってリンパ液を流せばいいのです。
例えば右腋窩リンパ節を郭清して右上肢にリンパ浮腫がある場合、リンパ液を左腋窩リンパ節と右鼠径リンパ節へ流せばいいのです。

医療徒手リンパドレナージの手技
医療徒手リンパドレナージの手技は、手掌を皮膚面に密着させた状態で、リンパ液を誘導する方向にゆっくり圧をかけ、柔らかくゆっくりと円を描くような動きをします。手技については実際に施術を受けたり、見てみないとわかりません。柔らかい手技なので、施術を受けているのかどうかわからないくらいですが、圧迫療法や運動療法と併用することで効果が期待できます。

以上、5回にわたりリンパ浮腫についての説明をしてまいりました。浮腫一般については、明らかな基礎疾患はないものの浮腫が見られる廃用性浮腫の頻度が高いようです。
一方、悪性腫瘍でリンパ節を郭清した場合などで発症したリンパ浮腫の場合は、アフターケアが充分でない結果、見過ごしてしまい悪化させてしまうことがあります。
近年はどうかわかりませんが、10年くらい前までは、手術後の定期検診は行うものの、そこまでであり、その後のリンパ浮腫への対応や他部位への悪性腫瘍の転移についての診察は充分ではありませんでした。
いろいろ知ることで恐くなることもありますが、それでも私たちは知る必要があります。まず問題意識を持ち、それを調べることです。検索して、芋づる式に知識を増やしていけばいいのです。それは楽しみでもあり、私たち自身を守ることにもなります。
鍼灸マッサージ師は医療従事者であり、一般の人たちよりは、いろいろなケースを見たり聴いたりしています。診断権はありませんので、安直に疾患名をあげたりすることはできませんが、内科・外科など問わず、患者さん全体を見るように心がけています。

この稿の参考文献および引用した図表は以下です。
「リンパ浮腫の治療とケア」佐藤佳代子編者 医学書院 2005年4月発行

リンパ浮腫について 5” に対して2件のコメントがあります。

  1. かつみ より:

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    1. katsumi より:

      ご覧いただき、ありがとうございます。
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